2025年5月27日、書家の井関春龍(いせき・しゅんりゅう)さんが大阪・関西万博の「ポップアップステージ西」にて書道パフォーマンスを披露されます。その舞台で使用される筆の制作を、今回、PROPが担当させていただきました。

素材には、北海道で害獣駆除された蝦夷鹿(えぞしか)の角を使用しています。
通常、私たちは包丁の柄を主に手がけており、木を素材とすることがほとんどです。蝦夷鹿の角は、めったに扱うことのない素材ですし、ましてや筆をつくるというのは、私たちにとっても初めての挑戦でした。

このご依頼は、春龍さんと交流があるSCIREさんのコーディネートを通じてお話をいただきました。
素材のもつ野性や存在感を、そのまま表現に活かすお手伝いができればと思いました。

角という素材には、独特の形状があります。今回使用した角も、大きく曲がっており、単純に軸へ接合することができませんでした。最初に一般的な書道用の筆を用いて、サイズの小さなものを作成し、手応えをもって本番制作に至りました。
まっすぐな筆の芯と、曲がりを含んだ自然のかたち。この差をどうやってなじませるかは、技術的にも難所でしたが、これまで包丁づくりで培ってきた加工技術や精度が、ここで活きたと感じています。

また、このように角そのものの形を残した道具というのも、非常に珍しいものです。岸和田のだんじり祭で鐘を鳴らす道具に鹿角が使われることはありますが、「筆」として命を得るのは、ほとんど例がないのではないでしょうか。

この筆が、春龍さんの身体の動きと、太鼓や篠笛の音と重なり合い、一つの作品として舞台の上で生きる——。そう考えると、素材としての鹿角に、新たな役割と命が宿ったような気がしています。
今回の筆は、井関春龍さんのために特別に制作した「春龍モデル」です。
鹿角の自然なかたちを活かし、一本ずつ調整を重ねながら仕上げるため、大量生産はできませんが、もしご興味のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。
用途や表現に合わせたオーダーにも、できるかぎり丁寧に対応させていただきます。